課題2 回折格子

回折格子による干渉現象についての実験を行います。

原理・背景等

回折格子

透明な板の片面に 1mm あたり数百本の溝をつけたものを回折格子という。 溝と溝の透明な部分がスリットの役割をし、 そこを通過・回折された光の干渉がおきる。

今回の実験では 1mm あたり 500 本の溝が刻まれた回折格子を利用する。 取り扱いやすいように、 マグネットシートの枠に回折格子シートを貼り付けている。

回折格子を通してみる光

回折格子に刻まれた溝は非常に細く、一見ただの透明なシートに見える。 上の写真は、白色LED を撮影したものであり、 下のものは回折格子シートを通して撮影したものである。 実像に加え、回折格子によって生じる虹色に分光された虚像を確認できる。

回折格子によるレーザー光の干渉

レーザー光を回折格子に通してみると、なにが起きるだろう? 回折格子を通過した後のレーザー光の軌跡を「エアロゲル」をつかって確認してみたものが上の写真である。 レーザー光を左から入射する。 画面左端に設置された回折格子により、レーザー光が複数の線に分かれることが分かる。 直進する最も明るい線に加え、上下に同じ角度で線が分かれる。 注意してみると、上側にはさらにもうひとつ分離した線を確認できる。

レーザー光の様に波長・位相が揃った波は、 回折格子による干渉によってある決まった角度のみ進むことができる。 干渉条件を満たさない角度には光は伝わらない。

全体的な光の拡散や、中央での屈折はアエロジェル内での乱反射、容器壁面等の影響による。

回折格子の干渉条件

二重スリットの場合と同様、光路差が波長の整数倍となる時に回折光は互いに強め合う。 回折格子の隣り合う二本のスリットで、干渉条件を考えてみよう。 角度 θm の方向に できた m 番目の明線について考える。

格子間隔 d は十分に短かく、 隣り合うスリットから 角度 θm の方向に進む光路を 平行線として扱うことができ、 光路差は dsinθm となる。

光路差が波長 λm 倍になるとき、 m 番目の明線が生じるため、干渉条件は dsinθm = mλ m = 0 ±1 ±2 となる。

色(波長)による違い

光の波長 λ は色によって異なる。 赤・緑・青のレーザー光を回折格子に通すと、レーザー光はどのような影響を受けるだろう?

緑・青色レーザーも、赤色レーザー同様に複数の線に分離する。 回折格子の干渉条件は sinθm=m·λ なので、 波長が短ければ明線の生まれる角度 θm も小さくなる。 赤・緑・青レーザーの波長はそれぞれ 650nm · 532nm · 450nm

赤・緑・青色レーザーによる干渉の違いを見比べて、角度と波長の関係を確認してみよう。

回折格子による分光

レーザー光の干渉の様子からも確かめられるように、波長の違う光は回折格子によって異なる方向に曲げられる。 LED等のように色々な波長成分を含む光を回折格子を通してみる場合を考える。 入射光の大部分は直進するが、一部は干渉条件を満たす方向に曲げられる。 波長の長い赤色成分はより外側に、短い青色成分は内側に曲がる。

回折格子を通して光源を見る場合、 直進成分(実像)に加えて、干渉によって曲げられた光も同時に見る。 回折格子での屈折を認識できないので、 人間は光源とは別の場所からの光として認識する。 その結果、実像に加えその隣に虚像が現れる。 色・波長によって屈折の度合いが異なるため、 虚像は色によって現れる場所が分かれる。

この仕組を活用したものとして、回折格子を利用した「分光器」がある。



課題1 回折格子による波長測定

回折格子をつかい、レーザー光による干渉縞を観察する。 干渉縞の間隔 Δx を測定し、 測定結果と格子間隔 d から、レーザー光の波長をもとめてみよう。

回折格子による波長測定

第一明線の干渉条件は、光路差が 1波長に等しくなる、つまり d sinθ1 = λ が満たされる時である。

格子間隔 d が既知の回折格子を使い、 レーザー光の干渉を確認し、第一明線の sinθ1 を測定することで、レーザー光の波長を λ を決定できる。

測定手順
1) レーザーポインター・回折格子・記録用スクリーンを実験ステージに設置する(設置上の注意を確認)。
2) スクリーン上に明線 (m=-101) が現れていることを確認する。
3) 3つの明線 (m=-101) の位置をスクリーン上に直接記録する。
4) スクリーンを外し、第一明線までの距離 Δx を測定し、 sinθ1 を求める。
5) 得られた Δx からレーザー光波長 λ を決定する。
セットアップ概要

レーザー光の回折の様子から分かるように、ヤングの実験とは異なり干渉縞は大きく広がる。 ブックスタンドに取り付ける前に、手元でレーザー光を回折格子に通して広がりの程度を確認しておく。

±1 明点の両方がスクリーン上に入るように、 回折格子・スクリーンの位置を調整する。

回折格子はマグネットシートに貼り付けられているので、 そのままブックスタンドに取り付けられる。

sinθ1の求め方

スリット・スクリーン間距離 l と、 第一明点までの距離 Δx から、 sinθ1 = Δx l2 + Δx2 を求められる。実際に計算を行う場合には、二乗、平方根と手数がかかる。 直接 sinθ1 を求めるよりも、 tanθ1 = Δxl を計算し、 tanθ1 の値から sinθ1 を求める方が手軽である。

設置上の注意

sinθ1 の計算は、 第 0 点へのレーザー光が、スクリーンに垂直に入射することを仮定している。 傾きがあると sinθ1 の計算に誤差が生じる。

垂直に入射されていれば、 m=1-1 の明点が 0 の点に対して対称にあらわれる。

Δx の決定方法

第一明線までの距離 Δx = | x1-x0 | の様に第ゼロ明線からの距離として測定できる。 より正確・精確に測定するために、 Δx = | x1-x-1 2 | の様に、第 ±1 明線の距離から決定する。

なぜ後者の測定のほうがより精確な測定となるか、考察してみよう。

tanθ1sinθ1: 三角関数表の利用

tanθ1 が決まったら、三角関数表により sinθ1 を求められる。

0.01 ラジアン毎の値がまとめられている三角関数表を用意した。

三角関数表ダウンロード
tanθ1sinθ1: θ1 の計算

より精確に sinθ1 を決定する必要があれば、 θ1 の値を計算する。

関数電卓には θ1 = tan-1 Δx l を求められるものもある。

数値計算を簡略化し、計算ミスを避ける工夫をすることも実験には重要な要素である。



課題2 回折格子によるCDのトラック間隔測定

課題1では格子間隔が既知の回折格子を使い、レーザー光の波長を決定した。 次は、得られた波長 λ を使い、未知の格子間隔の測定を行う。 CD の記録面は回折格子とよく似た構造をもつ。干渉縞測定によりCDのトラック間隔を測定する。

CDによる光の干渉

CDのレーベル面を剥がした所をとおしてLEDの光を見てみると、 分光された二つの虚像を確認できる。 回折格子を通してみたものとよく似ている。

データ面で光を反射しても同様な観測ができるので、 身の回りに CD もしくは DVD があれば試してみよう。

CDの構造

CDの記録面には、中心をディスクの中心とする沢山の円(トラック)が、 およそ 1.6μm 間隔で設けられている。 一つのトラック幅(ビット幅)は約 0.5μm。 トラックに沿ってビットを作り、データを記録する。

CD は同心円状の多数の溝によって構成される回折格子と考えることもできる。

CDの構造に関する説明
CDのトラック間隔測定

回折格子により決定したレーザーポインターの発光波長 λ を使い、CDのトラック間隔を測定しよう。

回折格子のかわりにCDによる干渉縞の第一明線間隔 ΔxCD の測定から、 sinθCD を求めると、CDのトラック間隔を   dCD = λ sinθCD として決定できる。

もしくは 回折格子の格子間隔 d=2μm と、課題1の測定結果 sinθ1 を利用し、 dCD = d · sinθ1 sinθCD として求めても良い。

測定手順
1) 回折格子の代わりに、CDを実験ステージに設置する。
m=-101 の三点の測定が理想的だが、難しい場合は -11 のどちらかだけでも良い。
2) CDによってできるレーザー光の干渉を確認し、明線位置をスクリーンに直接記録する。
3) スクリーンを取り外し、第一明線間隔 ΔxCD を求める。
4) CDのトラック間隔 dCD を決定する。
セットアップ概要

CDのトラックは円周に沿っているので、回折格子と全く同じ様に設置するのは難しい。 m=±10 の三点をスクリーンに収めるのが難しければ、 第 ±1 点のどちらかと 第 0 点の二点を記録する。

0 点へのレーザー光がスクリーンに対して垂直に入射しなければならないことに注意すること。